ヒマラヤ専門ガイドの浅原です。

3月から続いていたエベレストシーズンが終わり、数々のドラマだけを残し、一斉に登山客はヒマラヤを去っていった。そして、この地に棲む神々と野生動物が暮らす本来の姿に戻り、静寂な世界が広がっている。

これから数か月にわたり、インド洋からもたらされるモンスーンの影響で、ヒマラヤは一気に夏に向かって彩を増し、新たな素顔を見せてくれる。

標高4000m以上の世界では、あちこちに天空のお花畑が現れ、いろんな色をした妖精が美を競って、最もヒマラヤが輝く時期を迎える。

雲よりも高い場所に出現するお花畑の頭上には、澄み切った蒼空をキャンバスにして、純白な雪をたくさん被ったヒマラヤが見える。だからこの時期は秋よりもはっきりと色が映える素敵な写真が撮れるのだ。

私たちを一瞬にして虜にしてしまうヒマラヤの妖精は厳しい環境に適応できるよう、独自の進化をしてきた。

冷たい強い風から守るように個体を極端に小さくしたり、綿毛をまとって体を温めたり、空気中の霧から上手に水分を得たり・・・妖精たちが環境に対して、上手に適応する姿に驚くばかりだ。

①矮小化する妖精

リンドウ科 ゲンティアナ・オルナタ

  • 高地による乾燥や凍結をもたらす強風から身を守る
  • 地下に蓄えられた太陽の余熱を吸収しやすい
  • 草食動物の食害を受けにくい
  • 最も一般的にみられる適応のスタイル

②ロゼッタ葉(地面に這うように広がる形状)をもつ妖精

リンドウ科 スェルティア・ムルティカウリス

  • 地表に広がるロゼッタ葉によって、吹き抜ける風を避ける
  • 太陽光を最大限に吸収できる
  • ロゼッタ葉の成長により他の植生を近づけず、地中の少ない水分を得る

③マット状になる妖精

サクラソウ科 プリムラ・プリムリナ

  • 寒風にさらされる植物体の面積を小さくする
  • 散生する植生より、目立って昆虫の目を引きやすい

④太くて長い主根をもつ妖精

ケシ科 メコノプシス・ホリュドゥラ

  • 不安定な礫地でもしっかりと植物体を固定できる
  • 地中深くにわずかに滞留する水分を得ることができる。
  • 結実後に株全体が枯れてしまう、一回結実性の種が多い
  • 礫地や岩の割れ目等で見られることが多い

⑤走出枝を延ばして株をつくる妖精

ユキノシタ科 サキシフラガ・ブルノニス

  • 走出枝を延ばし、栄養繁殖を行う
  • 崩壊しやすい場所でも走出枝を張り巡らせ、株が作れる
  • 不安定な斜面等で見られる種

⑥太くて中空の花茎をもつ妖精

キク科 サウスレア・トリダクティラ(綿毛もまとう)

  • 自らの呼吸作用によって発生した熱を内部にためる
  • 太陽の余熱を茎内にためる

⑦地中深くに芽を持つ妖精

タデ科 ビストルタ・マクロフィラ

  • 冷たい風や乾燥から植物体の芽が保護できる
  • 食害を受けても、地下から再度芽を出すことができる

⑧密生する長生をもつ妖精

ゴマノハグサ科 ペディクラリス・トリコグロッサ

  • 寒さや乾燥、紫外線から植物体を守ることができる
  • 空中に漂う霧から水分を集めて潤う

⑨綿毛をまとう妖精

キク科 ワタゲトウヒレン

  • ワタゲをまとうことで、温かい空気を滞留させる
  • 空気中の霧から露をつくって潤う
  • 温室効果ににより、虫の休憩場所となり、受粉を起こりやすくさせる

⑩パラボラ状の妖精

バラ科 ポティンティラ・アルギロフィラ・アトロサンギネア

  • 太陽に向かって開くことで、反射した熱を花の中心を温める
  • 受粉の手助けをする虫の目を強く引き付ける

※ヒマラヤ植物大図鑑(山と渓谷社)参考・引用