カトマンズの真北40㎞に位置するランタン渓谷。 世界でも最も美しい渓谷として知られ、ヒマラヤ通のトレッカーに人気がある場所だ。 このエリアに人が入るようになったのは、今から60年ほど前の1960年代後半。 他のエリアよりもずいぶん後になってからの事だった。 カトマンズから近い距離にあるヒマラヤにも関わらず、8000m峰などの極めて高い山も無かったということが要因だろう。
ヒマラヤ山脈を南北に縦断するボテ川(チベットを別名ボテと呼ぶ)によって、ネパールのヒマラヤは地理学的に8つに分かれている。 その中でも比較的小さい部類に入るのがネパール・ランタン山群である。
端麗な容姿のランタンリルン峰を筆頭に、無数の7000~6000m級の山々で囲まれた、幅1km、長さ20数キロにわたって東西に延びる渓谷。 1千メートル以上の断崖絶壁が続くU字渓谷が特徴だ。 峰々の頂に降った雪が何万年もの年月を重ね、大氷河となりヒマラヤの頑丈な岩盤をゆっくりと削りながら渓谷を創り上げた。
ランタン渓谷へのアプローチは大きく分けて3つ。 ① 中国・ネパールの国境近くにあるシャブルベンシからランタン渓谷を目指すルート(初心者)② カトマンズの北に広がるヘランブーの大地を登り、ゴサイクンド湖を目指すルート(中級者) ③ ゴサイクンドよりも更に東にある5000mの岩稜を歩くガンジャラ峠越えルート(上級者)である。 どのルートを通っても、ランタン渓谷に至る、景色が素晴らしいルートばかりである。
5月後半~9月下旬にかけて、ネパールでは本格的な雨季を迎える。 インド大陸から湿った温かい空気が、ヒマラヤの南側にぶつかって大量の降雨をもたらす。 6000mを超える世界は雪に覆われる。 そのため渓谷に響き渡っていたトレッカーの歓声もこの時期になるとぴたりと止まりる。 数日間トレッカーに出会わないことも決して珍しくない。 しばしヒマラヤは本来の静けさを取り戻す。
この時期、一年を通じて最も美しいヒマラヤの装いを見ることができることを知っているだろうか? 雨季と言っても、一日中雨が降ることは殆ど無い。 お昼ぐらいからポツリポツリと降り始めるので、午前中は朝陽の中を歩くことが多い。 神々しいヒマラヤは厚い雲の中に隠れてしまうのだが、足元には百花繚乱の中にトレイルが延び、感動なトレッキングができるのだ。 お花畑を抜け、またお花畑・・・標高5000mを超える世界までお花畑が続くのである。
蕾の時に雪などにあたると・・・花の色が赤く変色する
4000m以上の高地に達すればいつしか雲の上を歩いている。 雲海の上に輝く最も雪を被ったヒマラヤをはっきりと望むことができるだろう。 静まり返った雨期のヒマラヤは本当の姿を魅せ、感動的に美しいので是非お勧めしたい。
天空の花畑にテントを張り、ブルーポピーを探しに行く・・・
私は大学時代にランタン渓谷を舞台に卒業論文を書いた。これをきっかけに26年この地を歩き続け、今までに50科以上、400種を超える可憐な妖精に出会い、その美しさを写真に収めてきた。 トレイル沿いを歩くだけで見られる妖精だけでなく、渓谷を歩き回って見つけてきたりと、歩けば歩くほど、新たな種が見つかる。
トレッカーにとって憧れの花、ブルーポピーはランタン渓谷では10カ所以上の群生地を把握しているが、その時の気象によって開花がずいぶん大きく異なる。 ゲストに美しい妖精を見てもらおうと、5000m近い標高の中を数時間かけて、最低5か所の群生地を巡り歩く。 そしてもっと美しく微笑む場所を見つけて案内する。
400種を超える可憐な妖精がほほ笑むランタン渓谷だが、昨今の温暖化によって見ることが難しくなってきている花が意外と多い。 2019年のフラワートレッキングでは、希少種になっている妖精を少しでも多くの方に出会ってもらいたいと考えている。 また新たな種に出会うかもしれない。 貪欲になってランタン渓谷の妖精を探したいと思う。